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2003年5月のFMICS



「郵便」に民間手法効果

 2003年5月5日(月)の日本経済新聞経済面(3面)に、“「郵便」に民間手法効果”という題で、日本郵政公社が発足してから1か月の経過が書かれていた。日本郵政公社の民間手法導入といえば、トヨタ生産方式が思い浮かぶ。週刊ダイヤモンドの2003年2月22日号には、カイゼンの指南役として、トヨタ職員が越谷郵便局に入り、2002年12月から2004年3月まで実験的にトヨタ生産方式を導入し、2004年4月から全国規模で実施に踏み切るという記事があった。

 我が教育界においては、国立大学法人が2004年度から実施される。郵政の例でみるように、本当に改革に手をつければ、運営の枠組みが法律によって規定されているだけに、国立大学の意思決定改革は、かなりの速度で進むことが予想される。一方、私立大学はどうであろうか。大学の規模やその歴史的経緯によってその運営機構は千差万別であるが、多くの大学が、教授会や各種委員会との調整を諮り、意思決定が遅く、しかも、責任が曖昧になっていることが多いのではないだろうか。かなり意識して自らを変えていかないと、気が付いたときには、取り返しのつかない状況が起きるのではないかと危惧される。

 また、組織改革の問題は、単にトップの意思決定方法だけの問題にとどまらない。その実施を支えるスタッフや多くの関係者との「意識の共有化」ができてはじめて成果となって現れてくる。国立大学法人化では触れられていないが、現存する教授会との調整や現実に実施にあたる専任職員がどのように変わるかによって、改革の成果が大きく変わってくるのではないかと思う。この点、私立大学も同様である。

 前記した日本経済新聞記事の中で、郵政公社のある営業担当者が、「これまで窓口で切手を売るくらいで、積極的に受注を獲得する営業努力をしてこなかった。」と語っていた。この点、週刊ダイヤモンドでは、トヨタからの指南役が、@多忙な部署とヒマな部署の格差大きい、A業務管理できない管理職が山のようにいる、B巨額の機械化、自動化の意味がほとんどない、C高コスト、低レベルの商品・サービス調達、D大量の業務データを活用する意識がない、という5項目を指摘している。実に、私立大学の現況を言い当てられているようで、心苦しく感じるのは、私一人であろうか。

 最後に、週刊ダイヤモンドに書かれたトヨタ自動車技監林南八氏の話の一部を紹介しておこう。

「トヨタが強いのではない。トヨタは当たり前のことをやっている。また、徹底してやっているかどうかで差がつく、本気でやっていれば決して負けない。そして、儲かる会社と同時に企業市民でないとやっていけない。利益だけではなく、社徳のある会社、感謝される会社でないといけない。」

 結局は、何も難しいことはないのである。当たり前のことを、あせらず、本気で、組織の中で淡々とやり続けられるかどうかが、この激動の時代の中で明暗を生むのではないだろうか。

(成蹊大学 浅沼 雅行)



「壁の崩壊」

 「日本取締役協会(宮内義彦会長=オリックス会長)は国公立大学の教官が株式会社の社外取締役に就任できるように規則を改正すべきだとの意見書を人事院に提出した。経営の監視役としての社外取締役の役割が重くなるなか『高い専門性を持った国公立大教官を社外取締役から外すのは、企業改革にプラスにならない』(宮内会長)と主張する」(日本経済新聞2003年5月2日朝刊)

 21世紀の到来と時を同じくして、新制大学(広くは学校教育)の制度疲労が露呈してきたことは、会員に詳述の要もないであろう。そのひとつのトレンドは、大学を囲む壁の、能動的には撤廃、受動的には崩壊、であろう。

 黄金週間の谷間にあたる平日の報道でも、次のような記事が目に飛び込む。

 「北海道大学は中国の北京大学内に、医薬品開発や排ガス処理などに使う触媒をテーマにした研究交流拠点を開設する。日本の企業や他大学にも開放し、中国の研究者との交流を推進する。中国に進出した化学会社などが現地で採用する研究・技術者の確保を後押しする狙いもある。・・・海外に研究交流拠点を置く日本の大学の動きが目立ってきているが、企業などに施設を開放するのは珍しいという」(前出紙2003年5月2日朝刊)

 「文部科学省は1日、大学の教授や学生を小中学校に派遣し、学生が放課後の補習を支援したり、教授が授業手法を助言する事業を今年度から始めると発表した。国の事業として、小中学校と大学が連携して学力向上に取り組むのは初。研究校として全国の小中など計389校と計83大学を指定し、非営利組織などとの連携のあり方も研究する」(前出紙2003年5月2日朝刊)

 制度疲労の大きな一因は高等教育機関を取り巻く環境変化である。戦時体制の反動から生じた学問の独立という文化規範を背景に、戦後日本の一国経済主義と大学進学者数の上昇に支えられた「象牙の塔」感覚ではもはや最高学府の社会的権威は保てない。別な観点からは、企業から無視されてきた大学教育を、このままさらに継続することは大学の教育力を決定的に低下させ、経営自体を左右する。

 改革の手法の軸には前述の、大学を取り巻く「壁」を自ら壊していくことにある。にもかかわらず、多数の大学人は、新制大学が永遠の大学像であると無自覚的に受け止めているように見える。さらには、既特権を護るというホンネを隠しつつ、さまざまな言辞を弄して、この壁の存続に躍起になっている大学人もまだまだ大勢いることも事実であろう。

 「学問の独立」の美名の下に、教授会が第二労働組合として機能し、そこに職員組織が寄りすがっている大学には、社会の付託に応える21世紀の大学像を描くことは永遠にできない。

(山本 明正)



特色ある大学教育支援プログラムについて

 「特色ある大学教育支援プログラム」実施委員会(第1回)が4月24日に開催された。この実施委員は、私大理事長、国・公・私立大学長、高校長、大学教授、業界関係者、マスコミ関係者等からなる26名で構成されている。

 今回の委員会で以下のことが審議された。

特色ある大学教育支援プログラムの実施に関し、
1 選定対象

2 選定テーマ
 選定テーマ数は4テーマとし、1テーマにつき5年で一巡させる。

  1. 教育課程の工夫改善
     教養教育、専門教育、リテラシー教育、高大連携、キャリア・ガイダンス、コミュニケーション能力育成の工夫改善など
  2. 教育方法の工夫改善
     授業形態と授業方法、教育効果を高めるため、人的体制、履修指導、問題解決型の授業の改善工夫など
  3. 国際交流の工夫改善
     留学生教育、海外派遣プログラム、交際交流特別プログラム、協定校との相互交流の工夫改善など
  4. 地域・社会貢献の工夫改善
     地域貢献プログラム、公開講座等、社会人教育、社会奉仕活動の工夫改善など

3 選定数
 1テーマについて約2倍程度の事務的選定を行い、その上でヒヤリングを実施し、案@約70-95件程度、案A約40件程度を選定する。

 このほか審査体制、審査手順、事業スケジュールが審議された。

 いよいよ、大学教育支援プログラムが動き始めた。単純に計算すると、4テーマ×40大学×5年間=800大学が選定され、約8割の大学が対象となる。

 しかし、実際には選定される大学とされない大学の二極化が表面化するであろう。COEの時は、選定大学に関して高校は関心を示さなかったと言われている。今回は、そう言う訳にはいかない。教育に熱心な大学に生徒を送りたいと高校は考えているからである。今からでも遅くない、学生の立場に立って教育を行う姿勢を大学は取るべきである。

(鳥居 聖)



ご案内1 FMICS 5月例会 (第459回例会)


 国立大学法人の誕生。国公私立大学の三つ巴の競争はますます激化します。大学を活き活き活かすために、ITは果たしてして有効なのか否か。 企業の最先端で活躍されるお二人から、大学への提言をしていただきます。ご期待ください。

【日時】  平成15年5月31日(土) 午後1時30分〜6時

【会場】  工学院大学新宿キャンパス 4階 0477教室

【テーマ】 大学を活き活き活かす 検証 競争の時代にITは有効か

【発表者】
「学生獲得CRMシステムの開発秘話と大学業界へのアプローチについて」

(株)ジンコーポレーション 代表取締役 田淵 義朗

「卒業生に対するIT戦略」

ともクリエーションズ 代表取締役 渡邊 桃伯子


【月例会一言案内】

《 田淵義朗さんからの一言 》

 昨年度から、専門学校大原学園で稼動している学生獲得支援システム(CRM)は、導入後から受講生が大幅にアップした。それは何故なのか。また、このシステムはどのような背景の中から生まれたのか。専門学校業界の熾烈な学生獲得競争のなかにあって、現場の担当者の熱き思いは、システム設計・開発を担当した我々の心を大きく揺さぶった。一つの大きなヒント・・・それは「入学前ガイダンス教育プログラム」の思想である。設計スタッフは、資料請求者(第一次接触者)を逃さない、見込み客を顧客に、そしてロイヤル顧客にしていく手法をITで実現することを考えた。われわれの業界でいうところのCRM(カスタマ・リレーション・マネジメント)システムである。

 大学業界と専門学校業界と事情は違うかもしれないが、冬の時代を迎えた大学にも、きっと役に立つITのお話。そしておまけで、クライアントには教えたくないIT業界の裏話も話します。

 今年度より地方の私立大学で、実験導入を行います。大学システムははじめての経験なので、皆様よりご意見、ご感想をいただければと思います。

《 渡邊桃伯子さんからの一言 》

 一橋大学の同窓会である「如水会」は、3万人の会員を擁し、現在その20%にあたる6千人が「如水会ネット」の生涯メールアドレスの会員である。「如水会ネット」ではそれぞれのテーマに応じたメーリングリストを提供している。18歳の現役大学生から85歳のOBまで幅広い会員がいるので、メーリングリスト上での議論も喧喧諤諤である。「如水会」ネットのサービスの中には大学関係者(例:ゼミOB会・サークルなど)に無料でサーバースペースを貸し出すものがあり、100を超える団体がこのサービスを利用してホームページを立ち上げている。

 どの大学も若年の同窓会会員の獲得に頭を悩ませているが、「如水会」もその対策の一環として「如水会ネット」に力を入れている。

 入学生を獲得するにはまず卒業生から・・・!東工大でも導入された「生涯メールアドレス」サービスなど「如水会」のIT戦略について「如水会」のシステムアドバイザーを務めている渡邊の目でみた実際をお話したいと考えている。

【参加費】 会員:1,000円 学生:500円 非会員:1,500円

【申込先】 桜美林大学 出光 直樹 idemitsu@obirin.ac.jp



ご案内2 YFN5月例会 (第458回例会)

 三和義武さんは、愛知淑徳大学入試広報課として10数年取り組み、女子大伝統御三家から男女共学化・学部増・入試改革と大学改革の真っ只中で奮闘し、ここ5、6年間、名古屋地域の入試志願者状況では、淑徳が1人勝ちといわれる状況に貢献した人物です。そのような市場原理や競争原理の中で働き、現在は学生課に配属となり3年目になられました。教育の世界を改めて学生を通して見つめ、考えることから、学生との関わりの中から改めて大学の自治を語っていただきます。

【日時】 平成15年年5月28日(水) 午後6時30分〜8時30分

【会場】  愛知淑徳大学 長久手キャンパス 3号棟 3階 338教室

【テーマ】 古くて新しい課題にチャレンジ 大学の自治について考える

【スピーカー】 愛知淑徳大学学生課長 三和 義武

【参加費】 社会人:1,000円 学生:500円

【申込&問い合わせ先】 岐阜聖徳学園大学総合企画課 林 憲和 nhayashi@ha.shotoku.ac.jp



FMICS SD 141

●FMICS Staff Development 略して 「SD」は、月例会とは別に、原則として第3週の水曜の夜に開催されているゼミナール型の勉強会です。超競争時代をしたたかに活き抜くためにも、大学人一人ひとりの努力を束ねる場です。

(1)メディアチェック 
 あなたのアンテナが何かを感じた新聞・雑誌等の教育&経済トピックスを、切り抜いて持ちよりディスカッションします。トピックスは厳選して1件、A4縦判にコピー(15枚程度)して、氏名と簡単なMEMOを付してご持参ください。各自5分間程度のコメントをしていただきます。

(2)テーマを定めた継続的な勉強会
 1997年度:国立教育研究所編『日本近代教育百年史』/1998年度:工学院大学と拓殖大学沿革史/1999年度前半:『戦後の大学論』/1999年度後半:中教審、臨教審、大学審等の「答申」/2001年8月から:『英国高等教育制度検討委員会(デアリング委員会)報告』(通称デアリングレポート)/2001年12月からは新企画がスタートしました。前日本私立大学連盟事務局長 日塔 喜一 さんをアドバイザーとしてお迎えしてご自身の著書『機会均等へ向けて』を読み込み、経常費補助金制度の誕生(昭和45年)以降の私学経営の軌跡をチェックしました。
 なお、しばらくの間メディアチェックに専念し、2003年度開始予定の政策提言プロジェクト(仮称)への準備にあてます。

【日時】 平成15年5月21日(水) 午後6時30分〜8時30分

【会場】  工学院大学新宿キャンパス 高層棟27階 2710ゼミ室

*教室変更もありますのでご注意ください。

【テーマ】  ポリシーマインドを磨こう
       高等教育・経営政策ゼミナール −9−

【申込先】 桜美林大学 出光 直樹 idemitsu@obirin.ac.jp



速報 6月のFMICS

 FDが大学を変える。今や大学の授業は、教員と学生がともに改善していくものとなりつつある。特に、初年次教育での共同作業は学生のやる気を明らかに喚起する。最新情報を沢山紹介します。

【日時】 平成15年6月21日(土) 午後1時30分〜6時

【会場】  工学院大学新宿キャンパス

【テーマ】 大学を活き活き活かす・これからのFDを考える
         初年次教育の重要性

【スピーカー】 『Between』 編集長 足立 寛